住宅の、階段の話
皆さんは
階段というと、どんなことを思い浮かべますか。
私などは、田舎の実家の、両手で掴まって上る急勾配の階段を、真っ先に思い
浮かべます。
田舎では、みんながこれを梯子段(はしごだん)と呼んでいました。
農家の、屋内外で頻繁に使う梯子(ハシゴ)と、階段の中間くらいの意味合いでの、
命名と思われます。
又、他には、子供の頃、友達とよく遊んだ、村の小さな神社の階段を思い浮か
べます。
これは、神社の社殿へ上るための、わずか数段の緩い勾配の木造階段で、階段
幅も広く、子供でも自由に駆け上がったり、駆け下りたりできるものでした。
これに続く左右対称の、社殿を囲む手すり付回廊も、とっておきの遊び場で、
これらは擬宝珠(ギボシ)をまねた簡単な装飾柱と、見た目以上に堅牢な手すり
とで、構成されていました。
田舎でも、どこの家にもそれなりの床の間はあり、家の中での位置づけが
されていたようですが、階段は、床の間ほどに関心がもたれる場所では、
なかったようです。
それらの多くが、両側、又はいずれかが壁の、どちらかというと急こう配で
暗く、両手で支えないと安全に上り下りができないようなものでした。
考えてみれば、階段は家の中で唯一、垂直方向へ、人が往来する通路という
役割を持っています。
そして、我々二本足で歩く人間にとって、この通路移動は、平坦部分のそれに
比べ、遥かに高い運動能力が要求されます。 家屋内における重大事故が、
主に階段で起こると言われる事からも、これが裏付けられます。
現在の住宅の、階段の形式を分けるとすれば、大きく以下の二つに分けられます。
(1) 両脇が壁で構成される、箱状階段
(2) 両脇、又は片側が手すりで構成される階段
更に、手すりの形状で分けると、以下のようになります。
(1) 手すりの、親柱と親柱の間を、直線手すりでつなぐ形式。
これらは、日本の社寺仏閣の広縁や、社殿への登壇階段にみられる
手すりで、この形式を英語では、(ポスト. ト. ポスト)と呼んでいます。
(2) 手すりの、親柱と親柱の頂部を、曲線手すりと直線手すりで連続して
結び、手すり親柱の頂部が手すり上部へ突出しない形式。
これを英語では、(オーバー. ザ. ポスト)と呼んでいます。
近年、住宅には、単に住まえれば良いという機能の他に、ゆとりを感じさせる、
水平方向、垂直方向の、空間構成の工夫が求められます。
特に、垂直方向の空間の広がりは、ゆとりを引き出すことに、大きな効果が
あります。
そして、階段が設置される空間は、もともと住宅の中では唯一、最大の垂直
空間を備えています。
これからの住宅設計者には、階段に、垂直方向の移動を助ける、安全面での
配慮に加え、垂直方向の、空間構成を豊かにするという配慮も、必要ではない
でしょうか。
オーバー.ザ.ポストと呼ばれる階段手すりには、以下の特徴があります。
(1) 階段手すりが連続してつながるため、手すりに添えた手を、途中で持ち
代える必要がなく、このため、階段の上り下り動作が楽で、他形式の
手すりに比べ、より安全性が高い事。
(2) 手すりが、直線と曲線で連続して構成され、手すり構成部材が組み
あがると、木の工芸品のように美しく、しかも、手すり相互は、埋め
込みのボルトとナットで接続され、手すりと手すり子柱、手すり柱と段板が、
差し込み接着組み付けとなって、とても 堅牢になる事。
このような、安全性と意匠に優れた階段手すりが、日本で思いの外普及しな
かった事については、以下のような深刻な問題があげられます。
(1) このような階段を現場で製作するには、様々な作業に熟練した、大工
さんの高度な技量が必要とされましたが、近年はこうした大工さんが、
既に高齢化し、熟練後継者がいなくなってしまった事。
(2) それにも拘らず、部材供給会社(主として米国)でさえも、この階段手
すりを作る上での明快で、簡便な方法の提示ができず、現在でも、高度の
熟練が要求される、目視と勘による解説書が、唯一の作業指示書となって
いる事。
(3) このため、組みあがったこの形式の階段手すりに、堅牢性に劣るだけで
なく、工芸品ともほど遠い、見せ掛けだけのものが多くなり、施主からの
高い評価を得ることができなかった事。
(4) この事は又、良識ある建築会社が、この熟練と勘による、不安定な手すり
階段の採用を、むしろ避けるようになってしまった事。
(1) 曲線手すりを含めた、各部材の切断接続寸法
を、正確に決定できます。
(2) これにより、大工さんは、オーバー. ザ.ポスト階段の作業開始前に、その作業
の全体像を簡単に見通す
ことができます。
(1) 階段の基本的な緒元が8か所決まれば、
オーバー.ザ.ポスト階段の手すり部材の
切断接続寸法(15~17か所)が、全て自動計算
で算出されます。
(2) 理論的には、この階段の基本的な緒元が決まると、オーバー.ザ.ポスト手すり
部材のそれぞれの切断接続点は、計算で決められた
一点に限定されます。
(3) これにより、従来の勘と熟練による接続切断寸法の決定とは、労力、精度
とも雲泥の差が出ます。
(4) 一方で、手すり部材単体の加工精度や、手すり親柱等の
組み付け途上での、
ある程度の誤差も、現場ではどうしても
避けられない要素です。
しかし、このような事が起こっても、この変動による修正も、A4版の自動
計算書に、補正早見表が自動計算されて印刷
されますので、これを基に
現場で迅速に誤差補正ができます。
(5) このように、作業に携わる大工さんには最初から、? 厳密な
基準数値の
明示と、? 現場につきものの、誤差修正のための変動値も、
明示でき
ますので、安心して作業に取り組むことができます。
(6) ご要望に合わせて個々に作成される、この自動計算書には、この計算書に
基づいて作られた、階段部分の立面図が貼り付け、添付されます。
※ 自動計算書の様式をご覧になる場合は、
こちらです。
※
自動計算書の様式は、左図のシンボルA.B.Cに
分かれています。 A.B組は回り階段手すりを表し、
計算書は、計算表1-1(A部)と計算表1-2(B部)
に分かれて手すり緒元が計算されます。又、C組
は手すりが壁に当たって固定される場合を表し、
計算表2(C部)となって自動計算書が作られて
います。
ご希望の箇所の計算書をご覧になる場合は、下記のそれぞれのリンク先
を選んで
ください。
計算表1-1(A部)をご覧になる場合はこちらです。
計算表1-2(B部)をご覧になる場合はこちらです。
計算表2 (C部)をご覧になる場合はこちらです。
注意!!リンク先が小さくて、又は大きくて見づらい場合は
“表示(V)”部で、
適当な大きさを選んでご覧ください。
(1) 階段部材は、米国のフィッツ社の製品を想定して計算書が作られれています。
L.Jスミス社の製品では、部材の製作基準寸法が異なります。
フィッツ社のオーク製品は、レッドオークを使用し、価格が比較的安く採用
しやすい事が大きな利点です。 赤みを帯びた木柄は、堅く美しい色調を
持っています。
(2) 階段手すりの芯を、建物芯と一致させました。
階段の歩行方向での、手すり子柱、親柱、階段段板の設置芯位置等は、過去の
作業実績を参考にして、○ 設計の利便性、○
堅牢な取付け、○ 意匠の美しさ
から、任意で決定したものです。
直線は美しい、けれど曲線は負けずに美しい
イタリアの工業デザイナー、ルイジコラーニは、世の中に直線などはないと
指摘しています。 確かに優れた工芸品は、多くの曲線の連続の妙でできています。
ここで取り上げた、この曲線手すり部材の接続点は、自動計算で、
正確に一か所
だけ、決められます。 これが実現された時が
一番、自然で美しい
ものとなります。
従来は、目視と勘による、この接続点探しに、大方の労力と時間が費やされ、勢い、
意匠や堅牢性に配慮する事が、ないがしろにされてきました。
しかし、自動計算で、各部材の接続点が確定され、作業の全体像を予め把握できれば、
大工さんは、本来の技量を十分発揮して、美しく堅牢な階段を完成させる事ができます。
○
そして、設計、施工者は、その初期の意図を充分にかなえる事ができます。
○
大工さんは、技能者としての誇りを持って、作品を残すことができます。
○
更に、施主とそのご家族は、美しい曲線手すりの階段を、わが家の誇りとして、
永く想い続けるに違いありません。
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